『ナショナル・ギャラリー』徘徊中の
Camelです。

「あっ、デスパレートな妻たちだ。」Part 2
ルーカス・クラナッハ<アダムとイブ>を見て西ウィングにはお別れ、
北ウィングへ

レンブラント<ベルシャザルの饗宴>

光と影のコントラストに「光の画家」と呼ばれるレンブラントの特徴が現れている作品。

全体的に暗めの画面の中に、スポットライトのように光の集まる部分をつくり、人物や場面を劇的に浮かび上がらせる手法で後世に多大なる影響をおよぼした。

楽しいロンドンの美術館めぐり』出口保夫・齊藤貴子(著)

こちらは旧約聖書に登場するバビロニア王ベルシャザルが、エルサレムの神殿から略奪した杯で酒宴の最中、突然死を予言されるというシーン。

レンブラントってこんな「演技してま〜す!びっくり〜!ババ〜ン!」な絵も描いてたんだ。知らなかった。普段は代表作としてピックアップされない作品に出会えるのも美術館の楽しみですね。

続いて、せっかくイギリスの美術館にいるから正真正銘のイギリス人画家をご紹介します。

まずは18世紀イギリスで肖像画家として人気だったレノルズ。
しかし彼が描きたかったのは肖像画よりステータスの高い歴史画だった。

富裕な貴族階級がその種の絵を所望することがあったとしても、それはいわゆる大陸の巨匠たちの作品であり、イギリス国内の画家に注文が来ることはあまりなかった。

楽しいロンドンの美術館めぐり』出口保夫・齊藤貴子(著)

アーティストあるある。「自分のやりたいことと、もらえる仕事のギャップに苦しむ」はいつの時代も変わらないんですね。

しかし彼は思いついた。
「肖像画を歴史画風に描いちゃえ」と
それは天井の装飾が美しいドームの壁の一角にありました。

おじさんのおでこがぁ。。。

レノルズ<タールトン大佐>

描かれているのはアメリカ独立戦争で軍功をあげたバナスター・タールトン大佐。
軍人にふさわしくシチュエーションは戦場のまっただ中。
暴れる馬、大砲、黒煙、臨場感あふれる背景をしょってボーズを決めるタールトン。
肖像画でありながら、18世紀イギリスの現実を描いたレノルズ的歴史画に仕上げてしまいました。

この絵は、国民的英雄像として人気を博し複製版画も多く出回ったとか。
よかったね。

もう一人、18世紀イギリスで斬新な肖像画を描いた画家がいました。

トマス・ゲインズバラ。彼は風景画が描きたいのに、生活のため仕方なく肖像画を描いていました。本人も「忌々しい顔書き仕事!」と呼んでいたほど。この肖像画に対する嫌悪が後にこんな作品を産みます。

トマス・ゲインズバラ<アンドリューズ夫妻>

一見素敵な絵。
こちらはアンドリューズ夫妻の結婚を記念して描かれた絵です。
肖像画のわりに風景多くない?と思いますよね。

でもこれ、二人とも地主の家系だったことから、この結婚で莫大な土地の所有者になったことも表現してるんじゃないかっていう解釈があるんだって。

そんな訳で、この田園風景も画家が描きたかっただけって訳でもないらしい。

この絵の問題は描きたかったことじゃなくて、描きたくなかったこと。

よく見て、ここ。夫人の膝の上。

遠くから見るとノート?ハンカチ?のようにも見えますが違います。

下地がむき出しになっているんです。

その理由は絵のシチュエーションにありました。
田園風景、夫の手に猟銃、足元に猟犬。

夫婦の結婚記念日、あるいは大土地所有者としての矜持などといったテーマの暗示より何より先に、まずは狩猟という具体的なシチュエーションが存在するのだ。それを踏まえたうえで、妻の手中の一筋の茶色の羽を改めて見なおせば、彼女の膝の上に本来描かれているべきものは、狩りの獲物であるはずの鳥である。もっとはっきりいってしまえば、鳥の死骸ということだ。

楽しいロンドンの美術館めぐり』出口保夫・齊藤貴子(著)

うぇー。
田舎に暮らすご婦人なら鳥ぐらいさばけて当たり前の時代だったとはいえ。
うぇー。
確かに描きたくないかも。

しかもゲインズバラはフランス・ロココ美術に影響されていたので、優雅なロココ調の絵の場合、貴婦人の手には本や花のブーケと相場が決まっていました。そこに来て鳥の死骸。
うぇー。
だからって下地むき出しで完成とするのもいかがなものかと思うけど。

それを踏まえて、絵の前でじーっと目をこらすと、
息絶えた鳥の姿が、
浮かび上がって、、、うぇー。

続く。